前回の「77才水彩画家の人生相談」のつづき。

 

●目が見えない日常

 

木々の間から光が差し込むほどの晴天の空だったが、懸命に話してくる70代女性の心模様は雨嵐に見えた。

 

「息子に会わせたいからうち来てくれます?」

イベントを見学するために公園に来た僕はいきなり他人の家へ招かれる流れになった。

 

はたから見れば、親子に見えるだろうか。

それとも、白髪のお婆さんと黒髪の孫に見えるだろうか。

 

77才女性と僕の2人は、杉の木が生い茂る公園から住宅街へと歩いて行った。

 

そして、公園から10分ほど歩いたところに綺麗な新築の一戸建てがあった。

 

「へー、Kさんっていうんだ。てか、こっちも名前言ってないなぁ」

そして家に上がらせていただくと早速、その息子さんを紹介された。

 

・KRさん(仮名)

・52才

・妻子持ち

・エリートな学歴

・元銀行員で現在不動産経営者

・メタボ気味

 

視力がほぼゼロになったことで見るからに覇気がない。

そして何よりも、『心』が崩れかかっている。

 

これまで見えていた目が突然見えなくなると人は、こうも生きる気力も自信も崩壊するらしい。

 

「目覚める時が怖いし、自殺すらも考える」

 

うつろな目をした彼は、初対面の僕に助けを求めるようにそうつぶやいた。

 

「なにかできることあればご連絡ください」

名刺を渡して家を出た僕は帰り道、考える。

 

なぜ、この親子と出会ったのか?

なぜ突然、家にまで招かれたのか?

なぜ、住まいが近いのか?

そして、大黒柱が折れかかっているこの家族はどうなるのだろうか?

 

悩みがスーパーヘビー級に、重い。

 

というか、救いを求められても僕は『眼科医』でも『精神科医』でもない。

 

つづく……電話がきたら

 

※今回もノンフィクションなのでプライバシーを守ってます

 

 

●今回の『知覚動考』

 

僕の志は知る人ぞ知る。

by 近衛文麿(政治家)

 

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